縁側で日向ぼっこ

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「いつか月夜」寺地はるな

「いつか月夜」2024/8/8

寺地はるな

主人公は会社員30歳の實成冬至(みなりとうじ)。父をなくしてから得体のしれない不安(モヤヤン)に憑りつかれるようになる。特に夜に来るそいつを遠ざけるため、とにかく何も考えずにひたすら夜道を歩くようになる。ある日、会社の同僚・塩田さんが女性(塩田さんの娘ではない。不登校の中学生)を連れて歩いているのに出くわし、散歩仲間に加わる・・やがて、なぜか散歩仲間は増えていく・・・。

 

読んでみての感想は、主人公の實成が、寺地さんの作品の「大人は泣かないと思っていた」の主人公、時田翼と似ているなあと思いました。翼はお菓子作りが趣味でしたが、實成は料理に興味があるらしい。真面目で考えすぎてしまうところなどは、結構共感できました。でも父から何度となく言われてきた「善く生きろ」という言葉は、うーん、實成のようなタイプに対しては「うまく生きろ」と言った方が正解だと思いますが、父親本人が善人であったようなので、仕方ないのかな?

得体のしれない不安に飲み込まれそうになって、外へ出てひたすら歩くというのは私にも経験があります。私も主に、夜歩くことが多かったですが、昼間でも歩いていました。ただそこで誰かと一緒に歩きたかったかというと、ちょっとそこは違うかな・・・

この物語の中でいちばん印象深かったのが、女子中学生の言葉でした。この女性は嫌いな父親につけられた名前がイヤで、ザベ子だったり、熊だったり呼び名が変わります。この時は熊。ある日、皆で夜散歩をしているとき、酔っぱらって歩けない、しかも泣いている見ず知らずの男性を、實成がおぶって家まで送り届けるシーンがあります。その男性の家がとても立派で、子供が「パパ、お帰り」と迎える声が聞こえてきて、いかにも幸せそうな感じなのになんであんなに酔いつぶれて泣いていたのだろう?大人たちが口々に言い合う中、熊が「ねえ、何か理由がないと、泣いたらあかんの?」熊は、自分事として語りはじめ「みんな、すごい説明してほしがる。わたしを理解しようとする。でも頼んでいないし。理解してくれとも寄り添ってくれとも言うてないし。あの狸のおじさんだって、そうかもしれんで。なにがあったんだろうね、って、わざとらしい。心配するふりして推理ゲーム楽しむの、趣味悪い」それにたいして、實成や他の大人たちはなにも言わなかった・・・

うんうん、本当にね。人って何かあると答えを見つけようとする。誰かが不運な目にあったとき、それに寄り添う気持ちで話しかけてくる人もいるけれど、ただたんに好奇心を満たそうとする人もいるってこと。そして何より本人が理解してくれとか、寄り添ってほしいとか思っていない場合もあると思うのです。

熊はちゃんと自分で答えを見つけて歩き出していきます。結局、自分で導き出した答えが本人にとっての正解なのではないでしょうか?